スピーカー
調査
「無線接続のモニタースピーカー」というのはあるのか?
結論
無いと言って良い。あっても眉唾もの。
無線接続という仕組みは、プロモニターに必要な要素を保つことと相性が悪い。
プロモニタースピーカーに求められる条件
- 中で勝手な音の加工や味付けをしていないこと(DSPが最小限)
- なるべく音が遅れず、遅れ方がいつも同じであること(レイテンシが低く、一定)
- 入れた音が、そのまま出てくること (入力信号に忠実)
- 特定の音域だけ急に強くなったり弱くなったりしないこと(周波数特性が安定・予測可能)
無線再生で起こる構造的問題
1️⃣ 時間がズレる(タイミングを信用できない)
無線通信では、音を安定して再生するために「すぐ鳴らす」より「途切れず鳴らす」ことが優先される。その結果、再生までの時間やタイミングが不安定になる。
主な原因
- バッファリング
- 通信の乱れに備えて、音声データを一度ためてから再生する
- ためる量は状況によって変わるため、再生開始のタイミングが毎回微妙にズレる
- レイテンシーの非固定
- ネットワーク状況や同期処理の影響で、遅延量が一定にならない
- 「常に同じ遅れ」で鳴る保証がない
- 無線同期処理
- 複数デバイスやサービスとタイミングを合わせるための調整が入る
- これも再生タイミングの揺らぎにつながる
結果として起きること
- 音の出だしやリズムの感じ方が安定しない
- タイミングを基準にした判断がブレやすくなる
2️⃣ 音が書き換えられる
無線再生では、再生の成立に関わる多くの要素(入力フォーマットの違い、ネットワーク由来の揺らぎ、再生環境の差)を、スピーカー単体で吸収・調整する必要がある構造になっている。
そのため、モニター用途を意識して設計された製品であっても、再生の安定性や一貫性を確保するために、内部で一定の信号処理を行わざるを得ない場合が多い。
主な原因
- 内部DSP処理
- 低音の強調、高音の補正、音量の自動調整などが行われる
- これらの処理はユーザーから見えないブラックボックス
- ラウドネス補正・音質最適化
- 小音量でも良く聴こえるように音が加工される
- フォーマットの自動変換
- サンプルレートやビット深度が内部で変換されることがある
- 制作者が意図した状態がそのまま再生されるとは限らない
結果として起きること
- 音が良くなったのか、スピーカーが良く聴かせているのか分からない
- 音の違いや弱点を冷静に見極めにくくなる
今のおれに必要なスピーカー環境の条件
✅ 必須 (音)
加工が「固定」されている(最重要)
- 内部処理(EQ / 補正 / ラウドネス / フォーマット変換など)が毎回同じ
- 曲ジャンル・音量・再生状況によって勝手に挙動が変わらない
- 曲内容・音量・状況に応じて、内部処理を動的に変えない
- 曲の違いとスピーカーの違いを切り分けられる
操作端末は指示役に徹し、どの端末を使っても同じ経路を通る
- 操作する端末は、再生の開始や停止といった指示だけを行う
- 端末側では音の評価や補正を行わず、音の内容には関与しない
- 再生元や操作方法が違っても、最終的に通る音の経路が固定化されている
- 音量・音質・フォーマットに関する判断や制御は、再生経路の特定の箇所に集約されている
✅ 必須 (実用面)
「Macbook」「iPhone」「スマートスピーカー」から再生できる
- 面倒だと使わなくなっちゃうので
👍 あるとうれしい(音)
音の加工が少ない
- 完全フラットである必要はない
- 他環境へ判断を持ち出しやすい
情報量が「適切」にある
- 音域・定位・分離・ニュアンスが最低限把握できる
- 曲や状況によって情報量の出方が変わらない
- 自動補正や演出で水増しされた情報量ではない
👍 あるとうれしい(実用面)
短い呼びかけで済む
- × 「アレクサ、xxのスピーカーで、Spotifyで、PUNPEE流して」
- ◯「アレクサ、PUNPEE流して」
❌ 無いほうが良い
自動音質最適化・AIサウンド
- 曲解析による最適化
- 音量連動ラウドネス
- 状況依存で音を変える仕組み
情報量を売りにした派手な演出
- 過度な低音強調
- 空間拡張・立体音響の強調
- 「常に気持ちよく聴かせる」思想
「音をどう鳴らすかを決めるレイヤー」をApple系の技術で固めるのが良さそうかも
- 再生の判断
- 音量管理
- フォーマット変換
- 再生経路の統一
- 音声操作の入口
といった「音をどう鳴らすかを決めるレイヤー」をApple系で統一するのが良さそう。
Apple系で再生環境をまとめても、音が「良くなる」わけではない。
だけど、音の挙動が変わりにくくなる。どこで・何が・どのように音を決めているかが把握しやすくなる。結果として、曲の違いと、再生装置による違いを切り分けて判断しやすくなる。
理由① 再生の責任が一箇所に集約されやすい
Apple系の再生環境では、
- デバイス(iPhone / Mac / Apple TV)
- 通信方式(AirPlay)
- 音量制御
- フォーマット変換
といった要素が、同一思想・同一設計の延長線上で設計されている。そのため、
- アプリごとに音の性格が変わりにくい
- 端末を変えても挙動が大きく変わりにくい
- 「音がどこで決まっているか」を追いやすい
という特徴がある。再生の判断が分散しにくい、という点が音の固定化に大きく寄与している。
理由② AirPlayは音を「良くしよう」としない
AirPlayは、音質向上を目的とした仕組みではない。
なので曲解析に基づく音質最適化も、音量連動のラウドネス補正もジャンルや状況に応じたDSP切替も行われない。
再生を成立させるための処理は行うが、「曲をより良く聴かせる」ための判断は極力行われないようになっている。
そのため曲が変わっても、音量を変えても、再生方法が変わっても音の性格が大きく変わりにくい。
理由③ Apple TVは「音を良く鳴らす役割」を持たない
再生ハブとして見たとき、Apple TVは少し特殊な立ち位置にある。
スピーカーではない、アンプでもない、音質を売りにしたデバイスでもない。
役割はあくまで「再生エンジンとして音を出力すること」に限定されている。
この「音を良く鳴らそうとしない設計」が、結果として音の挙動を安定させている。
※ スピーカーはApple製である必要はない
音の固定化に寄与しているのは「再生ハブ側の構造」であって、スピーカーがApple製かどうかではない。
スピーカーに求められる役割は、入ってきた信号を余計な判断をせずそのまま出すこと。
なので
- プロ用モニタースピーカー
- 有線接続
- 内部DSPが固定、もしくは最小限
という条件を満たしていれば、 メーカーはどこでも良い。
また、Apple TVは音をアナログ信号にして鳴らすことができない(HDMI出力しかできない)ので、別途DAC等を用意する必要がある。
モニタースピーカーの選び方
「完成曲どうしの差が分かる」「自分の曲の弱点が隠れない」「再生条件が変わっても印象が変わらない」ってのを求める場合の条件は
- 入力は XLRが無難
- ノイズの混入が少なく、安定しやすい
- 内部DSPがない or OFFにできる
- 音の設計思想が評価向き
- 音量を変えても音のキャラクターが大きく変わらない
- 情報量を“盛らない”設計
- 音数の少ない曲を勝手に成立させない
- 情報を過度に整理しない
- 音が多い曲を自動的に聴きやすくまとめない
- 低音を誇張しない
- その他個人的な希望
- サイズが小さめ(高さ20cm以下、横幅は多少あっても平気)
- 色は黒系
→ GENELEC ( ジェネレック ) / 8010AMとか良さそう。
HTML音声抽出機、DACの選び方
- 一体型商品は、あんまいいのがない
- 役割が根本的に異なる機能を1台にまとめる設計がそもそも成立しにくい
- 商品自体はいくつかあるけど、どれも音の挙動を固定、把握しづらい
- 音質にこだわる人が使うように設計されてない
- HDMI音声抽出器(デエンベッダー)を選ぶポイント
- S/PDIF(光 or 同軸)で“デジタルのまま”出せる
- 2ch PCMを確実に通せる/固定しやすい
- 2chは「音そのものを評価するための仕組み」
- 5.1chは「音を成立させるための仕組み」
- EDID/HDCP/フォーマット交渉で事故りにくい
- 余計な“便利機能”が主役じゃない
- (できれば)スイッチ類が少ない/設定項目が少ない
- 「安いけど多機能」なやつほど地雷。「業務用途っぽく地味」なやつほど安全
→ エレコム hdmi 音声分離ASC-HDAV121BKとか良さそう
- DACを選ぶポイント
- 入力にS/PDIF(光/同軸)がある
- ライン出力を“固定”できる(Fixed / DAC mode / Preamp OFF)
- バランス出力(XLR/TRS)がある
- DSP/フィルター/ラウドネス系を完全にOFFできる(または搭載しない)
- 操作で設定が変わりにくい
- 出力レベルの基準が明確(+4dBu / −10dBV など)
- 電源・動作が安定している(常設運用前提)
- 音色切替・キャラクター選択を売りにしていない
→ FOSTEX USB DAC HP-A3mk2とか良さそう?
↑ XLR出力できないかも
AirPlay受信ハブとDACが一体になった製品
ざっくり比較表
| 評価項目 | Bluesound NODE | Marantz NR1200 | Denon DRA-900H-SP | WiiM Ultra | WiiM Pro Plus |
|---|---|---|---|---|---|
| AirPlay 2 の安定性 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◯ |
| 内蔵DACの精度 | ◎ | ◎ | ◎ | ○〜◎ | ○ |
| 音の再現性 | ◎ | ◎ | ◯ | ○ | △ |
| 再生経路の一貫性 | ◎ | ◎ | ◯ | ○ | △ |
| 長期安定性 / ソフト成熟度 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ |
| 見た目 | ◯ | ◯ | ◯ | ◎ | ○ |
| 本体寸法(W×H×D) | 220×46×146 | 440×105×378 | 434×151×339 | 135×42×140 | 140×42×140 |
| 本体重量 | 1.09kg | 7.9kg | 8.6kg | 0.45kg | 0.4kg |
| 参考価格(国内) | 約¥83,000 | 約¥57,000 | 約¥59,000 | 約¥55,000 | 約¥36,000 |
| メルカリ相場 | ¥25,000〜¥50,000 | ¥25,000〜¥45,000 | |||
| 公式サイト | Bluesound NODE | WiiM Pro Plus | |||
| 価格.com | 価格.com NODE | 価格.com DRA-900H | |||
| 総合評価(あなた向け) | ✅良さそう | ❌ デカすぎる | ❌ デカすぎる | ✅良さそう | ❌ Ultraのが良い |
どれも出力がRCA(XLRじゃない)から、GENELEC 8010AMと「RCA→XLR変換ケーブル」で繋ぐ必要がある。でもXLR出力が必須なのは
- ケーブルが3m以上必要
- 機材が多くてノイズが出やすい
- 電源環境が荒い
- 将来、別のプロ機材(ミキサー・アウトボード)と組む予定
とかの時だから、大きな問題じゃなさそう。
Bluesound NODEとWiiM Ultraで迷う。
「Bluesound NODE」vs「WiiM Ultra」
WiiMのが
- 値段安い
- リセールバリュー高め
- 見た目好き
だし、ASRとか測定重視のレビューで高評価受けてるし、WiiM Ultraにしよう。
Homepodの出力先を外部スピーカーにできない問題
HomePod は「自分 or Apple TV」以外を既定の出力先にできない。
だからHomePodに指示してWiiM Ultra→モニタースピーカーから音を出すのは無理。
(iPhoneをSiriで操作したり、HomePodで再生した後にiPhoneのSpotifyアプリで出力先を切り替えることはできる)
それでもこの構成を作るメリット、デメリットは以下。
メリット
- 自分の曲、他の人の曲を聴き比べる環境が手に入る
- モニタースピーカーを、家にあるオーティオインターフェース経由で繋げば、制作にも使える
- スピーカーをモニター下に配置できるサイズにできる
デメリット
- スピーカーがモニター用になるから、観賞用としての音楽体験の質は下がる
- 音声操作で音楽再生した時の出力先が、homepodsになる
- スピーカーで流すには、iPhone側での操作が必要
- デスク上の端末が1つ増える。ケーブルも計3本増える(電源×1、XLR×2)
まとめ
- 「音楽制作用のモニタースピーカー」は、無線での実現はキツい
- 音の遅延、バッファリングがある
- 音の味付けを無くすのがむずい
- 「入力フォーマットの違い」「ネットワーク由来の揺らぎ」「再生環境の差」等をスピーカー単体で吸収・調整する必要があるから
- 俺の目的は、完成曲を聴き比べて、自分の曲の長所/短所を把握すること
- ↑の目的の場合、遅延や音の味付けを無くす必要はない
- 必要なのは
- 音の味付けが「固定」されている(曲によって変わらない)こと
- 音の味付けが強すぎないこと
- 操作端末は指示役に徹し、どの端末を使っても同じ経路を通ること
- 無線通信の規格の中で、AirPlayが今回の用途に向いている
- AirPlay
- 再生の主導権(再生開始タイミング、サンプルレート、音量の基準値、同期の基準クロック、再生フォーマットの決定権)が送信側にある
- Appleエコシステム内で仕様が閉じているので、サードパーティが勝手な最適化を挟みにくい
- 「高音質化する仕組み」ではなく「安定して同じ音を届ける仕組み」として設計されている
- Chromecast
- 再生の主導権が受信側にあり、安定性は高いが、内部処理(バッファ・補正・変換)がブラックボックス化しやすい。
- そのため音の変化理由を追いにくく、比較用途では挙動が読みにくい
- Bluetooth
- 使用されるコーデック(SBC / AAC / aptX / aptX Adaptive など)が機器・OS・接続状況で変わる
- 電波状況によってリアルタイムにビットレートが上下する
- AirPlayに対応したスピーカーで、音の味付けが固定されていて、味付けが控えめなものがあれば一番良いんだけど、めぼしい製品は無さそう
- 前述したように、そもそも無線のスピーカーは各種ゆらぎを吸収できるように、音の味付けをしがち
- 内部処理がブラックボックスになりがち
- そもそも俺みたいな目的を持ってる人が少ない
- 代替案として「DAC一体型のAirPlay受信ハブ」+「有線のモニタースピーカー」の組み合わせがある
- DACが再生に必要な情報(曲データ、再生開始タイミング、サンプルレート、音量の基準、同期クロック、再生フォーマットなど)をAirPlayで受け取り、アナログ変換し、有線でモニタースピーカーへ送る
- モニタースピーカーは、有線で受け取ったアナログデータを再生する
- 具体的には、以下の構成が良さそう
残タスク
- 音声操作の時、サービス名(spotify)や接続方法(WiiM Ultra)を言わずに「Hey Siri、PUNPEEのRenaissanceを流して」で再生できるか?