思考キャパ

思考キャパが足りない問題

ここ数年、エンジニアの仕事、ダンミカでのWebサービス運営、ボクシング、音楽など複数のプロジェクトを同時並行で回している。
これまで自分は「時間」「体力/気力」が有限リソースで、これらのリソースが足りている限りは複数プロジェクトを並行してまわせると思っていた節がある。
でもある時から違和感を覚え始めた。
時間も確保している。体力も落ちていない。どのプロジェクトも一応は前に進んでいる。
でもどこか「伸びきっていない」感覚がある。努力量に対して、成長の跳ね方が弱い。
足りていなかったのは、時間でも体力でもなく「思考の余白」だった。
 
例えばボクシング。
練習はこなせる。シャドーもミットもスパーもやる。回数で言えば十分に積んでいる。
でも練習以外の時間にどれだけ「なぜ被弾したのか」「身体のバランスはどこで崩れているのか」「本当に伸ばすべきは何か」を考えていただろうか。
音楽もそう。曲は作れる。リリースもできる。 でも「自分の声質はどんな曲にマッチするか?」「この前作った曲を、音としてもっと心地よいものにするには、どんな歌い方の工夫があり得たか」といった問いを、制作時間外にどれだけ考えていただろうか。
 
人間のリソースは、「時間」「体力/気力」だけじゃない。
もう一つ、「思考のキャパシティ」がある。
戦略を立て、仮説を持ち、振り返り、プロジェクトの質を上げるためのするための“認知の余白”のことだ。
移動中、歩いているとき、シャワーを浴びているとき、ふとした空白の時間に発生する考え事の総量だ。
この「考え事の総量」はある上限が決まっていて、そのうちどれだけの時間を自分のプロジェクトに関する考え事に使えるか、というのが問題になる。
問いを立て、保持し、もう一段深く潜らせられるか。空白時間の中で、どれだけ自分のプロジェクトをブラッシュアップできるか次第で、次第で努力の質が変わる。
 
しかもややこしいことに、すべての努力が思考キャパの影響を同じように受けるわけではない。
思考の余白が少なくてもある程度順調に伸びていく領域と、思考の深さ次第で伸び方が劇的に変わる領域がある。
前者は、反復によって積み上がっていく。フォームが固まり、回数を重ねればそれなりに前進する。
後者は違う。
どこを修正するか、何を捨てるか、今のやり方は本当に最適か。
こうした問いを持つ時間、思考の量が、成長スピードを大きく左右する。
 
振り返ってみると、自分は前者の領域では順調に伸びていた。
回数を積めば伸びる部分、慣れと継続で改善する部分は、きちんと積み上がっていた。
でも伸び方が“跳ねる”タイプの領域 ──戦略、設計、仮説更新が必要な部分── では、伸びが遅かった。
努力はしていて、成長してる実感もあるのに、結果がイマイチ伴わないのはこれが原因だった。
 
厄介なのは、思考キャパが足りていない状態でも、努力は一応“成果”を出してしまうことだ。
時間と体力を投入すれば前に進む部分と、思考を投入しなければ跳ねない部分は、同じプロジェクトの中に混在している。
続けていれば必ず何かしらの成長は実感できるから、思考キャパが足りていないことに気づきにくい。うすうす勘づいていても、一定の成長実感と忙しさが蓋をしてしまう。
そして後者は、意識しなければ永遠に“そこそこ”のまま積み上がっていく。だから突き抜けられない。

思考キャパの余剰もまた問題

ここで話は終わらない。
思考キャパは、足りなければ成長を鈍らせるが、余っていればそれで良いかというと、そうでもない。思考キャパが余ると、問題は三つの形で現れる。
 
1. いじりすぎる
思考の余白があると、人は“最適化”を始める。
まだ検証期間のはずなのに、
「このやり方で本当にいいのか?」
「もっと効率のいい方法があるのでは?」
「他にも試すべき選択肢があるのでは?」
と問いを増やしてしまう。
例えば筋トレ。
3ヶ月は同じメニューで神経適応と筋肥大を待つべきフェーズなのに、2週間で種目を変えたくなる。トレーナーを変えたくなる。ジムを変えたくなる。サプリを変えたくなる。
結果、十分な蓄積が起きる前に方向転換してしまう。
参考書を一冊やり切る前に、別の本に手を出す受験生も同じ構造。
回すべきフェーズで考えすぎると、積み上げが壊れる。
 
2. 不要な心配をする、重く受け止めすぎる
思考キャパが余ると、結果が出ない期間を必要以上に深刻に扱ってしまう。
本来は「まだ回数が足りないだけ」の局面でも、不安になったり意味を探しすぎたりする。
その結果、やらなくていい改善に手を出す。 検証途中なのに方向転換する。 あるいは、必要以上に重く受け止めて、投げ出したくなる。
過保護な親が、子どもに過干渉するのと似ている。
見守るべきフェーズなのに、思考が介入しすぎる。
待てば積み上がるはずの時間を、不安が壊してしまう。
 
3. もったいない
あとはシンプルにもったいない。
思考キャパは有限だ。跳ねる領域に投下すれば成長が加速するのに、余らせたり、跳ねない領域に使い続けてしまうのは、単純にもったいない。

じゃあどうするべきか?

まだわからないからこれから考える。